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23/3/24

オルリ・カステル=ブルームx橋本悠希
「5分で読めるイスラエル短編小説傑作選」アートコラボレーション

UP COMING

Event Details

コロナ禍によりイスラエル人アーティストの来日も途絶え、人的接触がある芸術活動が制限されていた期間、イスラエルの芸術を紹介する活動を続けらえるよう大使館文化・科学技術部は独自のウエブサイトを立ち上げました。


過去のメールマガジンをアーカイブすることで過去のイベントの実績を整理、また来日した多くのイスラエル人アーティストのプロフィールをインデックスにまとめて、今後も長く活用できるデータベースとして整えました。


そのサイト上で起こせる能動的な文化活動の一つとして始めたのが「5分で読めるイスラエル短編小説傑作選」プロジェクトです。地下鉄一駅区間分の短い時間、スマホでサクっと読めるイスラエルの傑作短編の電子文庫をつくりたい。それは、コロナ期の通勤途中に車内で文庫本をバッグから出し入れすることにも衛生的な疑いを感じたあの一時期の、自分自身の個人的な欲求でした。


また紙離れが進む昨今、翻訳されても本として出版されないイスラエルの傑作短編が少なからずあることが以前から気になっていました。本になりにくいのは出版社から売れないと思われているから。理由は読者が少なそうだから。しかし読者が少ないのは、読者がその存在を知らないから。存在を知ってもらえさえすれば、きっとファンができるはず。そしたら出版社もイスラエル文学の本を出したくなるでしょう。そのファン獲得のために、You TubeやTik Tokのように誰もがすぐに手の中で楽しめるフォーマットである必要があると思いました。


コンテンツでは、長きにわたってトップランナーとしてこの分野を牽引してきた翻訳家の母袋夏生氏、児童文学の分野で活躍している樋口範子氏にご協力いただきました。同時並行企画としラジオのJ-WAVEのポッドキャスト「SPINEAR」で4作品を音声化、こちらは若手翻訳家の広岡杏子氏や波多野苗子氏にもお力をお借りしました。音声コンテンツとなったイスラエル傑作短編は、J-WAVEの人気ナヴィゲーターのレイチェル・チャン氏の洗練された語り口と効果的な音楽によって、文字で読むのとは全く違う表現の、インパクトある成果物となりました。


一方、音声コンテンツとは違った形で、これらの傑作短編の世界観を拡張できないかという発想から企画したのが、現代美術とのコラボレーションでした。傑作短編のいくつかは超現実的なテイストのものがあり、サイトのビジュアルにイスラエルの風景写真を添えるのはかえって興をそぐような気がしていたのです。


その最たるものがオルリ・カステル=ブルームの作品でした。同じような不思議な味わいをもつエトガル・ケレットの、ドライでパズルのような質感とは違う、もっと謎に満ちた予言のような独特の重力を持つ彼女の作品に出遭い、イスラエルの美術留学から戻ってきた橋本悠希氏の作品とのマッチアップを企画しました。


『不思議な子ども(神童)』は、エルサレムでもテルアビブでもないどこかの街の誰かの体験談と告白です。その独特な世界にダイブして、生き生きとした言葉の力と現代美術の化学反応を楽しんでいただければ幸いです。


また忘れてはならない、この「5分で読める」企画の最大の功労者は、作品を快く提供してくださった作家や著作権管理者の方々です。既に亡くなられた作家の中には遺族が著作権を管理しているケースもあり、デジタル化交渉を進めるなかで、期せずして様々な家族の物語に触れる機会がありました。“事実は小説よりも奇なり”のごとく、作家たちの生きた証と、遺族の篤い思いの前に厳粛な気持ちになることもしばしば。また高齢の作家とのやりとりや、連絡先不明になってる作家の追跡に尽力してくださった協力者の方にも、この場を借りて深い感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。


                                                                                                                                                              イスラエル大使館文化部

本文はこちらから



<アーティストコメント>


私たちは普段1分の長さや1cmの長さといったあらゆる基準や区切りを頼りに生活しています。「〇〇症」という「正常」との区切りが見つかり続けていますから、私たちはどこかおかしいということがどんどん明らかになっています。世界の基準や区切りは絶え間なく増えているように思いますが、『不思議な子ども(神童)』を読み進めるうちに私の中に存在する基準という基準が次第に伸縮を始め、歪み解れ溶けていく、そんな感覚を覚えました。自分と世界との区切りも曖昧になり、他人の過去と未来の記憶の断片を継ぎ接ぎした夢をみているような、居心地が良いのか悪いのか白黒判断のつかない体験でした。

2021年10月から1年間、エルサレムで作品制作やフィールドワークを行いました。「白」か「黒」かで対立が絶えない場所だからこその対比でしょうか、土と石の「ベージュ色」が眩く心が震えました。私はいつも「何者でもあるが何者でもない」そういったものを作りたいと思っています。基準や区切りの境に目を向けることによって。オルリ氏の作品と私の作品のコラボレーションは大変光栄で、企画してくださったイスラエル大使館の内田由紀さんに心より感謝いたします。


                                                                                                                                                               橋本悠希(美術家)

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