
Israel Ministry of Foreign Affairs
My Journey with Israeli Jazz by Atsuko Yashima 八島敦子

八島敦子 Atsuko Yashima
エイトアイランズ株式会社代表取締役・プロデューサー。
父親の仕事の関係で8歳から11歳までアメリカ・シアトルで育つ。日本と海外の架け橋となるような仕事に就きたいと考え、早稲田大学政治経済学部で国際政治を学ぶかたわら同時通訳の勉強をする。大学卒業後、NTTでの仕事を通じ、都市計画に興味を持ち、慶應義塾大学大学院で建築・都市デザインを学ぶ。NHKエンタープライズ入社後は、国際ロボットコンテスト、フランスのクリスマス・マーケットの招聘、東日本大震災被災地支援プロジェクトMusic for Tomorrowなど国際交流事業やテレビ番組等を企画制作する。なかでも、立ち上げから15年以上にわたりプロデューサーを務めた「東京JAZZ」では、「国境を越えて、世代を超えて」をテーマに企画の立案や出演交渉をおこなった。2021年、エイトアイランズ株式会社を設立。長年の夢である「音楽と文化を通じて日本と世界を結ぶ」ことを目指し、コンサートやイベント、コンテンツのプロデュースに励んでいる。訳書に「チック・コリアの A Work In Progress(ワーク・イン・プログレス)~音楽家として成長し続けるために~」(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス2021年8月31日刊行) www.eight-islands.com
CONCEPT
私がこれまで出会い、心を揺さぶられてきた「イスラエル・ジャズとその周辺の音楽」のプレイリストをつくってみた。世界の音楽シーンのなかでイスラエルジャズの存在感を知らしめてきたアヴィシャイ・コーエンに始まり、私自身がイスラエル、フランス、アメリカなどで見聞きしてきた実力派アーティストたちの音楽、そして最近のお気に入りのバタリング・トリオやギラッド・アブロまで。本当はもっともっとたくさんあるので、別の機会に長尺のリストをつくりたいと思うが、とりあえずの抜粋版リストとして。
叙情的とか哀愁たっぷりの旋律とか文化のクロスロードとか、イスラエルジャズを言い表す言葉は人それぞれ。それだけ多様だし、状況によって色々な表情を持つのだから、それぞれが言葉を見つければいいのだと思う。私にとっては、フランス語のambiance(そこにあるすべての要素が創り出す雰囲気/ムード)という言葉を使うのがしっくりとくる。イスラエルジャズは幾層にも折り重なる文化的レイヤーがつくりだす独特のambianceを持った音楽なのだ。
さらに、何よりも惹かれるのは、現状にとどまらず、国境も文化も世代も、ジャンルもビートやリズムも越えて、貪欲に新しい要素を呑み込みつづける進取の精神、勇気、そして彼らの音楽が持つ優しさや柔軟性。
イスラエルジャズとの出会いは、常に私にとってのジャズの境界線を押し広げてくれたし、無限の可能性を持つジャズという音楽をますます好きにさせてくれた。そんなイスラエルジャズの地平線の彼方には未来のジャズが広がっていると思う。
Avishai Cohen - 'Remembering' live (Jazz in Marciac, 2010)
イスラエルジャズを世界に知らしめたのは、なんと言ってもベーシストのアヴィシャイ・コーエン。新しくも、懐かしくも感じる哀愁漂うメロディーと複雑なリズムは、まさにイスラエルルーツなサウンドだと思う。
先陣を切り、世界のジャズシーンに打って出たアヴィシャイは、イスラエル、アメリカではもちろん、ヨーロッパでも絶大なる支持を集めてきた。そして私もフランス人の友人にアヴィシャイの音楽を教えてもらい、初めてアヴィシャイの演奏を聴いたのも、フランス・ニースのジャズフェスティバルだった。そこではアヴィシャイならではのメロディックなセットリストが展開されており、民族音楽を取り入れた楽曲では、アヴィシャイ自身もベースを弾きながら歌い、観客とコール&レスポンス。国境も人種も越えて、美しい旋律が人々の心を震わし、会場全体が多幸感に満ちあふれていた。
Balkan Beatbox
私にとっての初めてのイスラエル音楽との出会いがバルカン・ビート・ボックス。これってジャズ?ヒップホップ?ワールド・ミュージック?なんだかわからない。でもなんだかうずうず踊りたくなるし、心地よい!だったら私にとってはジャズなのかも、と思ってしまった。音楽をジャンルで括る必要なんてないな、と目覚めさせてくれた存在が彼らでもある。進化をし続ける彼らの音楽を言葉でどう表現していいか、ずっと答えは出ないけど、心と体では理解している気がする。それでもいいのかもしれない。
Ramzailech
思わず踊ってしまった。こんな音楽が生まれるのもイスラエルならでは。ハードコアクレズマーの草分け的なバンド。クレズマー音楽の伝統と生身のロックサウンドに地中海のスパイスがたっぷりかかっている。私にとっては至極ジャズ的な音楽だったので、プレイリストにいれてみた。
Eli Degibri
イスラエルに初めて訪れて出会った衝撃がエリ・デジブリの演奏。ブルガリア人とペルシャ人の血をひくエリの、せつなく、幾層にも織り込まれたメロディーがもうたまらない。ハービー・ハンコックに見出され 、ハービーのセクステットのメンバーとして世界ツアーにも同行。さらにブラッド・メルドーやロン・カーターなどとも共演。イスラエル音楽にルーツを持ちながら、ジャズ界のレジェンド達からのレガシーも引き継ぎ、現代ジャズシーンのど真ん中を疾走しているエリから目が離せない。この楽曲でエリをサポートしている若手ミュージシャン(ピアノのガディ・レハヴィ、ドラムスのオフリ・ネヒミヤ)そしてイスラエルのジャズ界をずっと支え続けているベースのバラク・モリのそれぞれの活躍も要注目。
Moonlight Sonata By Avishai Cohen
回り道したとしても、時間がかかったとしても、自分ならではの音楽を、じっくりと丁寧につくりたい。そう語っていたアヴィシャイ・コーエン(トランペット)のプロジェクト:BIG VICIOUSがダブル・ドラムスだと聞いたときにはびっくりしたが、実際聴いてみると、大胆で繊細でとても優しくて、なんだかアヴィシャイらしいなと納得した。様々な音楽を呑み込み、現在進行形の自身のサウンドに落とし込んでいくアヴィシャイの想像力と創造力は無限大。
Elli Yeled Tov By Trio Grande / Will Vinson, Gilad Hekselman, Antonio Sanchez
ニューヨークで最も人気の高いギタリストのひとりとなったギラッド・へクセルマン。
マーカス・ギルモアやマーク・ターナーなど最も旬なミュージシャンとの共演を重ねており、現在のジャズの匂いを全身に纏っている感じがする。最近発表したアルバムRIO GRANDEは、イギリス出身のサックス奏者ウィル・ヴィンソン、メキシコ出身のアントニオ・サンチェス、そしてイスラエル出身のギラッドでつくりあげた。いまの時代に国境を越えるってこういうサウンドなんじゃないかな、と思う。この楽曲の意味をギラッドが教えてくれた。「Tovは良い子(Tovはギラッドの息子さん)」という意味だそう。
Turkish coffee Blue by Omer Avital
アヴィシャイ・コーエンと並び、イスラエルジャズを世界に知らしめてきた ベーシスト、オメル・アヴィタル。いつもステージのうえで、アーティスト達をしっかりとサポートするオメルのサウンドには、喜びと哀しみが深く織り込まれている感じもするけれども、抜群の安心感を感じてしまい、その音楽世界に身を委ねたくなる。若手アーティスト達を次々と起用し、オメルならではの音楽世界をつくリ続けている。
The Dream Theif By Shai Maestro
キース・ジャレットも賞賛するピアニスト、シャイ・マエストロ。彼もまた、アヴィシャイ・コーエンのバンドに起用された後に、自身のバンドで世界的に躍進を続けている。ガラス細工のように繊細だけれども、割れたガラスの破片のように鋭くも感じるシャイのピアノは唯一無二。数年前京都音楽博覧会で、カミラ・メザと共演した彼のピアノに日本の若者達が「マエストロやばい」と熱狂していた。彼のピアノには、人の心を揺さぶる強い力がある。
At Distance By Shachar Elnantan
1993年生まれの要注目ギタリスト。2016年アヴィシャイ・コーエンのレーベル「Razdaz Recordz」よりデビュー作をリリース。先人達のサウンドを受け継ぎつつも、新たなサウンドを受け入れていく勇気とイマジネーションに満ちあふれたフレッシュなサウンド。これこそイスラエルジャズと感じる。これから彼が切り拓く世界をじっくり見ていきたい。
GTO Trio
1990年代生まれのイスラエルの若き才能が集結したトリオ。チック・コリアやラヴィ・コルトレーン、デイヴ・リーブマンを驚愕させたピアニスト、ガディ・レハヴィ(1996年生まれ)、10代でアヴィシャイ・コーエン(べース)・トリオに抜擢されたオフリ・ネヒミア(1994年生まれ)、様々な楽器を操り、作曲家でもあるタル・マシアハ(1993年生まれ)。これからのジャズ界を牽引していく彼らのクリエイションがまたイスラエルジャズの新たな世界を切り拓いていくのだろう。
Nitai Hershkovits
アヴィシャイ・コーエンのバンドにシャイ・マエストロの後に加入したニタイは、ジャズにとどまらない、ビートミュージック、エレ クトロと幅広い音楽を取り入れながら、たたみかけるような美しいメロディーのシャワーを浴びせてくれる。ビートミュージックなんだけど、とてもメロウ。本人名義の作品以外にも様々なプロジェクトに参加しているが、どれもなんだかうっとりしてしまう心と体にぴたっとくる音楽。
Nitai Hershkovits 2
アヴィシャイ・コーエンのバンドにシャイ・マエストロの後に加入したニタイは、ジャズにとどまらない、ビートミュージック、エレクトロと幅広い音楽を取り入れながら、たたみかけるような美しいメロディーのシャワーを浴びせてくれる。メロウなサウンドが実に心地よい。本人名義の作品以外にも様々なプロジェクトに参加しているが、どれもなんだかうっとりしてしまう。心と体にぴたっとくる音楽。
Sail with Me By Buttering Trio
イスラエルのフューチャー・ネオソウル・バンド、バタリング・トリオの中心は、イスラエルの音楽シーンの最重要人物といえるビートメイカーのリジョイサー(Yuval Havkin)。
リジョイサーは013年頃にレーベルRaw Tapesを設立。ビートミュージックとジャズをブレンドして新たなシーンをつくりだしている。
バタリングトリオの音楽は、イスラエルならではのルーツ的な音楽をちょうどいい塩梅でビートに落とし込んでいて、熱すぎず、冷たすぎず、ちょうどよい温度で、もしかしたらイスラエルの海ってこんな感じなのかしらと思ってしまう。
そしてRaw Tapesのミュージックビデオの色彩が個人的にはとても好き。ビビッドになりきれない、ちょっと砂がかかったような色合いが、イスラエルの思い出と重なり、たまらない。
ギラッド・アブロ
そしてRaw Tapesよりもう1曲。現代イスラエルのジャズシーンのど真ん中で活躍し、ミュージシャン仲間からの絶大な信頼と人気を集めているベーシストがギラッド・アブロ。この楽曲が収められた2019年のソロ・デビュー・アルバムでは、ニタイ・ハーコシュヴィッツやバタリング・トリオのリジョイサーやケレン・ダンもサポート。様々な音楽をサポートしてきた彼のもとに、イスラエル音楽のモメンタムがぎゅっとつめこまれている。
次世代のアーティスト達は、卓越した技術力と音楽力を持ちつつも、先輩達が広げたイスラエルのジャズ世界をこんなふうに自在に浮遊している。やっぱり気持ちいい。
