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ホロコースト映画の宣伝に携わって
―映画は “世界のいま”を知ることができるライフワーク

仕事と趣味の狭間で

―菅野祐治(映画パブリシスト)

フリーランスの映画パブリシストになってから今年で9年目になる。さまざまなジャンルを宣伝してきたが、特にフリーになってから多く携わってきたのが、既に1つのジャンルとなっているホロコーストに関連した作品である。ひとつのきっかけは、半年間の休職中にアウシュヴィッツ収容所を見学したことだと思っている。知人の勧めでたまたま訪れ、日本人ガイドの中谷剛さんに案内をしてもらい、今でも鮮明に記憶に残るぐらいの衝撃を受けた。小雪が降り、朝靄もある中見学した、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所の収容棟やガス室は、昼間にもかかわらず薄暗く重苦しい空気が漂い、胸を締め付けられた。それは見聞きしただけでは感じることのできない体験で、私の人生を変える出来事である。また、ドイツ人学生の団体を目にして、加害者側の国の人々がここを訪れることの勇気と重要性を説いた中谷さんの言葉が、印象に残っている。帰国後、ホロコースト関連映画の宣伝の仕事をいただく機会があり、その後毎年のようにこのジャンルの作品を担当してきたが、作品ごとに様々な国、立場、時代で描かれており、毎回新しい歴史的事実を知ることにより、私自身、ホロコーストの専門家でもなく、ユダヤ人への知識も深い訳ではないが、一観客として異常にこのジャンルに惹かれていった。

映画=社会を映す鏡

一方、パブリストの観点でいうと、日本で公開する際、映画の顔である邦題やポスタービジュアルにいつも悩まされている。監督が作品にこめたメッセージ・意図をきちんと捉え、かつ配給会社の意向や興行的な側面を考える必要があり、邦題に“ヒトラー”や“アウシュヴィッツ”などの関連ワードを入れるのはそのためである。それは原題だけではなかなか内容が伝わりにい場合があるからだ。現在担当している2本も『アウシュヴィッツ・レポート』(7/30公開)、『ホロコーストの罪人』(8/27公開)と邦題をつけ、前者は原題のままだが、後者は「最大の犯罪」という原題から大きく変更している。しかし、なぜ日本でここまでホロコーストに関連した映画がここまで関心を持たれ、ヒットしているかは正直わからない。ただ、自分の視点で考えると、歴史的大虐殺の真相を知りたいという欲求があると同時に、こういった差別・悲劇は形を変えて今も世界中で起きており、私にとって映画はそういった社会状況を映す鏡であり、教科書になっている。
いま映画は仕事であると同時に、私のライフワークの一部になっており、旅にもつながっている。昨今はコロナ禍で海外にはいけないが、ここ10年でチェルノブイリ、コソボ、クロアチア、マケドニアなど負の歴史を体感できる場所を訪れ、いつのまにか仕事につながっていることが多い。いまの職種を今後もずっと続けているかはわからないが、少なくとも映画は常に私の隣にある存在である。

年配の男性人の肖像画

菅野祐治 Yuji Sugeno

フリーランスの映画パブリシスト。金融会社、劇場勤務を経て、04年より映画業界へ。映画配給会社で、主にミニシアターで公開される映画を中心に、パブリシティ(宣伝・広報)業務に従事し、13年よりフリーランスで活動。主な作品に、『顔のないヒトラーたち』『ヒトラーを欺いた黄色い星』『ヒトラーに屈しなかった国王』『ヒトラーの忘れもの』『テルアビブ・オン・ファイア』『天国にちがいない』『わたしは、ダニエル・ブレイク』『ドント・ウォーリー』など。
現在、『アウシュヴィッツ・レポート』(7/30公開)、『ホロコーストの罪人』(8/27公開)などを担当。

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