
Israel Ministry of Foreign Affairs
ぎゅっと抱きしめて

Illustration by Michal Rovner
お日さまが沈みはじめ、空が赤くなっていきます。
「ぼく、ひとりぼっちな気分だ」ベンが、そっとつぶやきました。
「でも、母さんがいっしょ、よね」
「だけど、母さんは、ぼくじゃないもの!」
ふたりは黙りこみました。あたりには心地よい香りがたちこめています。土の匂い、草の香り、それに、ハエや小さな虫たちが、飛んだり舞ったりしています。
ベンは、そばにうずくまっている犬のペレを撫でました。
「ペレも?」と、母さんに聞きました。
「ペレもって?」母さんが聞きかえしました。
「ペレみたいな犬も、世界で一匹しかいないの?」
「そうね」母さんはうなずいて、ペレのやわらかな毛を撫でました。「世界で、ペレは、ペレ一匹だけ」
ベンと母さんの足もとのそばを、アリの行列が進んでいきます。千匹あまりの、いっぱいのアリの行列です。双子みたいに、そっくりのアリたち。けれど、ベンがそばによって、じっと観察してみると、一匹は急ぎ足、もう一匹はノロノロ歩きです。大きな葉っぱをかついで懸命に歩くアリもいれば、タネ一粒を運ぶアリもいます。小さなアリが一匹、列からはみ出して、あっちこっち、うろうろ駆けまわっています。父さんと母さんからはぐれて、あわてて、父さんと母さんを探しているのかもしれない、とベンは思いました。
「あのアリは、自分は世界でたった一匹のアリだ、ってわかってるのかな?」
「さあ、どうかしら」と、母さんがいいました。
ベンは少し考えて、それから聞きました。
「母さんは、あのアリじゃないから?」
「そう、母さんは、あのアリじゃないから」
PAGE






